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借主の寝タバコが原因で火災が起きたら

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借主が火災を起こし、賃貸していた部屋の一部と隣室の一部を焼いてしまいました。
火災は、借主の寝タバコが原因で発生したとのことです。
この場合、貸主は、借主に対し、損害賠償請求をすることができますか。
また、契約解除することはできますか。

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貸主は、借主に対し、損害賠償請求することができます。
また、貸主は、賃貸借契約を解除することもできるでしょう。

出火の責任は限定される

火災を起こして隣室の住人に被害が及んでしまった場合、借主は損害賠償責任を負担しなければならないのでしょうか。

民法709条は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と規定しています。ですから、損害を与えた借主は、隣室の住人に対して、損害賠償責任(民法709条)を負う可能性があります。

しかし、火災の場合には、失火責任法が適用されます。失火責任法は、火災を起こした者に「故意又は重大な過失」がなければ損害賠償責任を負わないとしています。

「故意」とは、わざと行うこと。また、「重大な過失」とは、「通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかな注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見過ごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態」をいいます(最高裁/昭和32年7月9日判決)。

このように、失火責任法は、火災を起こした者の責任の範囲を限定しています。

このような限定をしているのは、火災の場合は被害が思わぬ範囲に拡大してしまう可能性があるので、火災を起こした者にすべての損害を賠償させるのはあまりに酷だからです。

質問のケースでは、借主は、不注意でタバコの火を消し忘れて眠ってしまったために火災が発生したということですから、この場合には借主に「重大な過失」があるといえ、借主は、隣室の住人に対して損害賠償責任を負担しなければなりません。

なお、裁判所は、質問のケースと同様の寝タバコの事例で、火災を起こした者に重大な過失があったと認定しています(東京地裁/平成2年10月29日判決)。

貸主に対する責任は別に負う

次に、貸室の一部に被害が及んでしまったことについて、借主は、貸主に対して損害賠償責任を負担する必要があるのでしょうか。

借主は、「善良なる管理者としての注意義務」をもって貸室を保管し、返還する義務を負担しています(民法400条)。「善良なる管理者としての注意」とは取引において一般的に要求される程度の義務という意味です。

借主が不注意で火災を起こしてしまった場合、借主は、この義務に違反したことになりますから、債務不履行に基づく損害賠償責任(民法415条)を負う可能性があります。

先ほど、火災を起こした場合には、失火責任法が適用されると説明しました。

しかし、失火責任法は、あくまでも火事という「不法行為」に基づく損害賠償責任に対して適用される法律です。

借主の貸主に対する責任は、これとは別の「債務不履行」に基づく損害賠償責任ですから、失火責任法は適用されません(最高裁/昭和30年3月25日判決)。

ですから、この場合の借主は、「故意又は重大な過失」の有無にかかわらず、貸主に対して損害賠償責任を負うことになります。

債務不履行に基づく損害賠償責任は、「債務者の責めに帰すべき事由」(民法415条)、つまり、借主側に非がある事情に対して負う責任です。したがって、火災を起こした借主側に、もしこのような事情があれば、貸主に対して損害賠償責任を負うことになります。

質問のケースでは、借主が不注意でタバコの火を消し忘れて眠ってしまったということですから、十分に非があるといえます。ですから、借主は、貸主に対して損害賠償責任を負担しなければなりません。

貸主の契約解除は認められるか。

では、さらに、貸主は、債務不履行を理由に、賃貸借契約を解除することができるでしょうか。

契約解除に関しては、貸主・借主間の「信頼関係」が焦点になってきます。

判例では、借主が部屋の使用ルールを守らなかった(債務不履行)場合でも、貸主が直ちに契約を解除することは認めず、貸主との信頼関係が破壊されたとみなされたときに、初めて解除を認めるとしています。

借主が火災を起こした場合、判例では、過失と火災の程度が極めて軽いといった特別の事情がない限り、原則として、信頼関係は破壊されたといえるとしています(最高裁/昭和47年2月18日)。

従って、質問のケースでは、貸主は、賃貸借契約を解除することもできるでしょう。