借主がピッキングによる盗難被害に遭ったら
先日、マンションの入居者が、ピッキングによる盗難被害に遭いました。
この入居者は、玄関のカギを防犯性の高いものにしていれば被害に遭わなかったとして、損害の賠償を求めてきました。貸主は、損害を賠償しなければならないのでしょうか。
原則として、借主がピッキングによる盗難被害に遭ったからといって、貸主はその損害を賠償する責任を負わなくてもいいでしょう。
もっとも、貸主がピッキングによる盗難被害について警察から何度も指導を受けていたのに十分な盗難防止策をしていなかったというような場合には、貸主は損害を賠償しなければならないでしょう。
再び急増してきたピッキング被害
ピッキングとは、〃ピック〃と呼ばれる針金のような特殊工具をカギ穴に差し込んで、不正にカギを開けてしまう技術をいいます。
ピッキングによる盗難被害は、平成12年をピークとして、その後減少していました。
平成15年には、「特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律」(いわゆるピッキング防止法)が制定され、開錠道具は、錠前業者が業務で使うなどの正当な理由がない限り、所持しているだけでも違法行為となったのです。
このように取り締まりが厳しくなると、ピッキングによる盗難被害はますます減少し、平成17年にはピーク時の半分ほどに減少していました。
ところが、平成18年から、ピッキングによる盗難被害が再び急増し始めており、予断を許さない状況になっています。
原則として貸主に損害賠償責任はない
では、貸主は、借主が盗難被害に遭った場合、借主に対して損害賠償責任を負わなければならないのでしょうか。
借主の財産は、基本的に財産を管理している借主自身が守るべきでしょう。
ですから、賃貸借契約上、貸主には借主の財産を盗難などから保護する管理義務はありません。
従って、原則として、貸主が借主の盗難被害の損害賠償責任を負うことにはなりません。
もっとも、契約によっては、貸主がこのような管理義務を負担しているといえる場合もあり、その場合には、貸主は借主が被った盗難被害について、損害賠償責任を負います。
具体的にどのような場合に損害賠償責任を負うかは、貸主がどの程度の管理義務を負担しているかによって異なるため、個別の賃貸借契約の事情に応じて、ケースバイケースで判断されます。
ピッキングによる盗難被害について、貸主の管理責任が問われた過去の裁判でも、
「賃貸借契約において、貸主が負うべき本来的義務は、借家を使用収益させる義務、修繕義務などであって、借主の所有財産を盗難などから保護することを内容とする管理義務は賃貸借契約から当然に導かれるものではない」とし、
貸主がこのような管理義務をどの程度負うかは、個々のケースに応じて判断されるべきだとしています(東京地裁/平成14年8月26日判決)。
では、質問のケースにおいて、貸主は、借主が盗難により被った損害を賠償しなければならないのでしょうか。
この点、先ほど紹介した東京地裁は、
- ・ 盗難被害について貸主は責任を負わないと契約に記載されていること
- ・ 賃貸事務所の入口はダブルロックで一応の防犯効果が期待できたこと
- ・ 貸主が順次賃貸ビルに機械警備を導入している最中であったこと
- ・ 借主が貸主にカギの交換を求めたことがなかったこと
などを理由に、貸主はピッキング被害防止策をとる義務を負担していなかったとして、損害賠償責任を負わないと判断しています(同判決)。
以上をまとめると、原則として、借主がピッキングによる盗難被害に遭ったからといって、貸主はその損害を賠償する責任を負わなくてもいいと考えるべきでしょう。
もっとも、貸主がピッキングによる盗難被害について警察から何度も指導を受けていたのに十分な盗難防止策をしていなかったという場合には、事情が違ってきます。
この場合は、盗難を未然に防ぐ措置を怠ったわけですから、貸主は損害を賠償しなければならないでしょう。
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