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ビルを無断で改造し、キャバクラ営業を始められたら

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所有するビルの1室を、洋品店の店舗兼事務所という使用目的で貸しました。
ところが借主は、ビルを無断で改造し、その場所でキャバクラの営業を始めたのです。
部屋の使用法が契約で決めたものとは明らかに異なりますし、無断で増改築をしているので、このことを理由に契約を解除して、契約を終了できないでしょうか。

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貸主が、賃貸借契約を解除して、契約を終了させることは認められるでしょう。

「信頼関係の破壊」によって契約の解除は可能

賃借物件の所有権は、一般的には貸主が持っていますから、借主が無断で改造することは許されません。

そこで通常、賃貸借契約書では、増改築のためには貸主の承諾を必要とし、これを得ずに無断で増改築した場合や、あらかじめ決められた使い方を守らなかった場合には契約を解除できるという特約が定められます。

本事例のような場合でも、このような特約に基づいて契約解除を主張できるでしょうが、解除できるかどうかは、最終的に信頼関係が破壊されたか否かによります。

用法遵守義務違反や増改築禁止違反の行為があっても信頼関係が破壊されていなければ、一方的に解除をすることはできないのです。

本事例では、キャバクラと洋品店の店舗兼事務所とでは業態が大きく異なること、また、借主がキャバクラ営業の目的を隠していたことが明らかですが、これは当事者双方の信頼関係に重大な影響を及ぼすものです。

さらに、キャバクラを営業するために、室内にさまざまな設備の増改築が行われたことが考えられるので、信頼関係が破壊されているとして契約解除は有効だと考えられます。

同様の事案においても、裁判所は解除を認めています(東京地裁/平成3年7月9日判決)。

契約解除が認められたケース

では、借主が無断で増改築を行い、それにより信頼関係が損なわれ、契約解除はやむを得ないと裁判所が判断したケースとして、他にどんなものがあるでしょうか。

借主がファッション関係の店舗からアイスクリーム販売店へ業種を変更したのですが、そのことを貸主に隠し、合意した範囲を大幅に超えて改装を行ったという事案があります。

改装は、窓、天井、床、壁をすべて取り外した大規模なものでした。

借主は、「改装が賃借部分の基本構造に変更を加えるようなものではなく、将来の修復が可能である」と主張していましたが、裁判所は、仮にそうだとしても、借主が業種の変更を隠したまま、従来の業種のままで改装をすると貸主に信じ込ませたこと、また、改装の範囲について文書を作成して合意したのに、これに違反したことを重視して、信頼関係の破壊による契約解除を認めました(東京地裁/平成元年1月27日判決)

契約解除が認められなかったケース

もっとも、決められた使い方を守らなかったり、無断で増改築がなされたりしても、増改築をするに至った経緯や程度、建物の構造、原状回復の難易などを考慮して、「信頼関係が破壊されていない」と判断したケースもあります。

たとえば、借主が物件に新たな外壁とシャッター4基を無断で設置し、さらに壁面(一部)や天井を撤去するなど、かなり大幅な増改築を行ったという事案がありました。

この増改築は貸主に無断で行われたものでしたが、裁判所は信頼関係が破壊されていないとして契約の解除を認めませんでした。

その理由として、この増改築が、通行人への危害防止や雨漏り防止などで行われたもので、緊急性、必要性、合理性が認められること、新たに設置された部分は、基礎の撤去がそれほど難しくなく、物件の使用に関して違反がなかったということが挙げられます(東京地裁/平成6年12月16日判決)。

以上をまとめると、たとえ借主が無断で増改築をしたり、使用目的を守らなかったりしても、実際に契約を解除できるかどうかは信頼関係の状況次第ということになります。

そして、これについて判断するには、増改築の経緯や程度(建物の基本的な部分かどうか)、建物の構造、原状回復の難易などが重要な要素になってくるのです。