敷引特約は消費者契約法10条により無効とはならないとされた事例
(最高裁平成23年3月24日判決)
事案の概要
借主は、マンション1室を賃料1ヶ月9万6000円で賃借し、保証金として40万円を差し入れた。同賃貸借契約には、明渡しまでの経過年数に応じて、18万円~34万円を保証金から控除する旨の敷引特約が存在した。
その後、借主は、約1年8ヶ月後に賃貸借契約を終了させ、賃借物件を明け渡した。
貸主は、敷引特約に基づき、保証金から敷引金21万円を控除し、残額19万円を借主に返還した。
借主は、本件敷引特約は信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるから、消費者契約法10条により無効であるとし、敷引金21万円の返還を請求した。
結論
敷引特約は、当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には、当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に定額であるなど特段の事情のない限り、消費者契約法10条により無効となる。
本件では、敷引金の額が通常損耗塔の補修費用として通常想定される額を大きく超えるものとまではいえない。
また、本件敷引金の額は、経過年数に応じて賃料額の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていることに加え、借主は、1ヶ月分の賃料相当額の更新料のほかには礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない。
よって、本件敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず、本件敷引特約は、消費者契約法10条により無効であるということはできない。
理由
賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものであるから、借主は、特約のない限り、通常損耗等についての原状回復義務を負わず、その補修費用を負担する義務も負わない。
とすると、借主に通常損耗等の補修費用を負担させる趣旨を含む本件敷引特約は、任意規定の適用による場合に比し、消費者である借主の義務を加重するものといえる。
通常損耗等の補修費用は、賃料に含ませてその回収を図られているのが通常だとしても、これに充てるべき金員を敷引金として授受する旨の合意が成立している場合には、その反面として、補修費用が含まれないものとして賃料の額が合意されているとみるのが相当であって、敷引特約によって借主が補修費用を二重に負担するということはできない。
また、補修費用に充てるために貸主が取得する金員を具体的な一定の額とすることは、通常損耗等の補修の要否やその費用の額をめぐる紛争を防止するといった観点から、あながち不合理なものとはいえない。
よって、敷引特約が信義則に反して借主の利益を一方的に害すると直ちにいうことはできない。
もっとも、借主は、通常、通常損耗等の補修費用の額については十分な情報を有していない上、貸主との交渉によって敷引特約を排除することも困難であることから、敷引金の額が敷引特約の趣旨からみて高額に過ぎる場合には、借主が一方的に不利益な負担を余儀なくされたものとみるべき場合が多いといえる。
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